この期に及んで、欧米人はまだ目が覚めないようだ。

「不思議」もなにも、日本人は決定的に高い衛生意識を持っているのだから、必然である。

新型コロナウイルス感染が始まった時、日本人は手洗いやマスク着用を励行するという対策をとるようになった。従来も流水で手を洗ったりおしぼりで手を拭う習慣はあったが、ただ手を濡らすだけではなく石鹸を使って丁寧に手を洗うようになった。その頃、欧米人がとり始めた感染予防策といえば、街でアジア人と擦れ違うときに自分の口と鼻をふさぐとか、アジア人に罵声を浴びせたり暴行をくわえたりするといった、有効性が極めて疑わしいものばかりだった。

日常的に握手、ハグ、チーク・キスをするといった文化であるにもかかわらず、食事の前どころかトイレのあとにも手を洗わず、その手でじかにパンをつかんで食べ、フライドポテトやガトーをつまんだあとの指をしゃぶる。屋内は土足で、風呂にはほとんど入らずシャワーを4、5分浴びるだけで済ませる。こんなふうで新しい感染症が広まらないほうがおかしい。

ヨーロッパではまずイタリアとスペインがひどいことになった。続いて感染が広まり始めたイギリスでは、マスクをしたほうがいいのではないかという話になってきたのだが、いかんせん日本とは違ってもともとマスクを嫌がる国民性である上に、店でマスクは手に入らない。ロンドン在住のある日本人女性がマスクを自作する方法をネットの掲示板で紹介したが、イギリス人たちの反応はといえば「われわれには高度な医療があるからそんなものはいらない。アジアとは違う」というものばかりで、好意的な反応を示したのはインド系とおぼしき名前の人だけだったという。そんなイギリスが現在どういう状況になっているかは、私からわざわざ言うまでもあるまい。

ちなみに、スケートリンクを遺体安置所にしなければならないほどの状態になっているスペインですら、いまだに手洗いがろくに習慣化していないという。ただ、やたらと手指消毒液は使いたがるらしい。恐らく彼らの中には、手洗いというのは衛生的な西洋文明社会に住む人間の振る舞いではない、という意識が根強くあるのだろう。消毒液を手に擦り込むだけより、石鹸と流水で丁寧に手を洗うほうがはるかに衛生的であることは、日本に限らず欧米でも保健当局が啓発しているのであるが、人々に浸透しないようだ。

欧米人の思考回路に、もしかしたら自分たちが間違っているのかもしれないという発想が微塵もなく、毎日おびただしい数の死者を出す事態に至ってもなおそういう発想が出てこないとは、本当に驚き呆れるばかりである。アジア人から学ぶことがよほど嫌なようだ。

なお、日本もこのまますんなりと事態が終息するとは思えない。欧米に比べて格段に良好な状況にあるとはいえ、まだまだ気を緩めるわけにはいかない。油断すればどうなるかというのは、欧米が格好の実例となってくれているのだから。