テクスト: 阿部智里『空棺の烏』 東京、文藝春秋、2017年。初刊は同社、2015年。

〔2017年11月25日(土)読了〕

八咫烏シリーズ第4作である。

シリーズ第1作『烏に単は似合わない』では、八咫烏世界の朝廷における、若宮の妃候補4人の女性の物語が描かれた。

第2作『烏は主人を選ばない』では、第1作において最後の最後まで姿を見せなかった若宮をめぐる物語が描かれた。

第3作『黄金の烏』では、八咫烏世界を見舞った災厄に対応する若宮とその近習、雪哉の奮闘が描かれた。

そして、このたびの第4作はというと──今までとはいささか趣を異にする。全寮制のエリート武官養成所である勁草院に、ある目的をもって送り込まれた雪哉と、彼を囲む10代の少年たちの物語だ。何だかテレビで放映されていた時にチラッと見たホグワーツを思い出した。

前3作に比べて妙にさわやかで、青春グラフィティみたいになっているなぁ、と思いながら読んでいたのだが、いやいや、阿部智里氏の書く物語がそんなに引っかかりもなく流れてゆくわけがない。読後感としては、雪哉もずいぶん狡猾になったものだ、というものである。

本作に続くシリーズ第5作は、現在単行本が出版されている『弥栄の烏』だそうで、これがシリーズ完結篇となるらしい。完結篇の前という位置付けであることを踏まえれば『空棺の烏』がいささか色の違う作品であることもうなずける。

かくなる上は、やはり完結篇まで読み通さないわけにはいくまい。