テクスト: 阿部智里『烏は主を選ばない』 東京、文藝春秋、2015年。初刊は同社、2013年。

〔2016年5月14日(土)読了〕

『烏に単は似合わない』の兄弟篇である。

八咫烏世界の名家の「ぼんくら次男」こと雪哉が、ひょんなことから宮廷で若宮の側仕えをするはめになってしまった。若宮は初日から雪哉にあれこれと大変な仕事を課す。その真意はというと──。

若干、前作『烏に単は似合わない』についてのネタバレになってしまうのだけれども、前作において若宮は妃候補の女性たち4人の前になかなか姿を現さない。そして、最後の最後になってようやく登場するや、痛烈な“謎解き”を披露する役回りである。はっきりいうとずいぶんと嫌な奴だ。

となれば、本作『烏は主を選ばない』においては、若宮が前作における謎を解いていた裏事情を描いているのだろう、と思って読み進めてみると、そういう話はまるで出てこない。そう、女性たちの件とは全く別のことで彼はすさまじい状況にあったのである。何というか、男には男の事情があっていろいろ大変なのだ。もてる男はつらいとかそういう次元の話ではなく、命がけなのである。

巻末の「解説」において、書評家の大矢博子氏がこう書いている:

まず、第一作[『烏に単は似合わない』]に若宮がほとんど出てこないことの不満については、ええ、そりゃもう、本書を読んで納得しましたとも。

若宮、こんなことになってたのか! そりゃ[妃候補たちの所へなど]来られんわ。来てる場合じゃないわ!

─(略)─

こう来たか。もう、読みながら声に出して言ったね。こう来たか! 阿部智里、おまえ、こう来たか!

[367頁]

これは全く私の感想を代弁してくれている。阿部智里、お前、よくもやってくれたな!

『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』は、ぜひ続けて読み通すことを強く勧める。私は間を空けてしまったけれど。