テクスト: 阿部智里『烏に単は似合わない』 東京、文藝春秋、2014年。初刊は同社、2012年。

〔2015年11月15日(日)読了〕

私が読んだことがある小説の中で、いわゆるファンタジーにカテゴライズされるのは、たぶん、エンデ『はてしない物語』、酒見賢一『後宮小説』、鈴木光司『楽園』、宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』の計4作品くらいだろうか。4作品とも私は激賞している。しかし、剣と魔法のナントカやら妖精と光のフンダララみたいなファンタジーにはどうも触る気になれず、従って、エジンバラのカフェでシンママが執筆し世界的なヒットとなったあのシリーズも一行たりとも読んでいない。

そんな私が、何を血迷ったのか手に取ってしまったのが、本書である。ファンタジーだ。人間ではなく八咫烏という種族の住む世界の王宮で繰り広げられる、若宮の妃の候補となる4人の女性たちをめぐる物語だ。

いやはや、なぜこれを読もうという気になったのか、自分でも分からない。剣と魔法のナントカでもなければ妖精と光のフンダララでもないが、ぱっと見にはいかにも少女趣味のファンタジーではないか。きっと『源氏物語』の激劣化コピーに違いない。などと思いながらも読んでしまった。

読後の感想を一言でいえば──「よくもだましやがったな、このアマ!」である。これはもちろん、作中の登場人物たちに対してであるが、作者の阿部智里氏に対してでもある。おいこら阿部智里、よくもだましやがったなこのアマ! 二十歳そこそこの小娘が、よくもはめやがって。おもしろいじゃないか、この小説! 何でこんなになるまでほうっておいたんだ!

だいたい、この作品は松本清張賞だそうではないか。だったら、ミステリーに決まっているのに、やたら手をかけて少女趣味のファンタジーを装いやがって。読んでいるうちにどんどん引き込まれて、途中でやめようにもやめられなくなったぞ。というか、清張賞受賞当時20歳って、君はどういう天才なのかね?

この勢いで、続篇というか兄弟篇の『烏は主を選ばない』も私の手に取らせようという魂胆だろうが、そうはいくものか。君の策略にはそう簡単には引っかからないぞ。待っていろ、そのうち読んでやる。