テクスト: 阿部智里『黄金の烏』 東京、文藝春秋、2016年。初刊は同社、2014年。

〔2017年1月25日(水)読了〕

八咫烏シリーズ第3作である。

シリーズ第1作『烏に単は似合わない』では、若宮の妃の候補となる4人の女性たちをめぐる物語が描かれた。第2作『烏は主を選ばない』では、彼女たちの前に全く姿を現さない若宮の事情が描かれた。そして、本第3作では──

八咫烏世界に出回り始めた薬物で狂う者が続出する。その捜査に乗り出した若宮と雪哉は、陰惨な事件の現場を目にすることに。

阿部氏のミステリーの組み立てぶりは相変わらず冴えている。加えて、登場人物一人一人もしっかりと書き込まれており、隙がない。全く期待を裏切らない。前2作は八咫烏の世界という異世界そのものを楽しむ部分が大きいが、本第3作はミステリーとして堪能できる。もっとも、そういう方向にシリーズが進むことによって、八咫烏世界の本来のおもしろさからは離れてしまうようで、読みながらちょっぴり残念な気もしたのだけれど、しかし最後にはそんな心配も払拭された。八咫烏世界がどういう位置づけであるか、今まで謎というか曖昧にされていた部分が最後に明らかにされ、第4作への橋を出して終わるのである。

そう来るか、阿部智里!