テクスト: 山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』 東京、宝島社、2015年。

〔2015年11月4日(水)読了〕

タイトルを見て、平賀源内ばりにエレキテルを使った飛び道具で事件を解決に導く江戸の女の話かと思いきや、手に取ってぱらぱらと見てみると、どうも違うらしい。タイム・トラベルものである。第13回『このミステリーがすごい!』大賞の最終候補だというので、読んでみることにした。

押し入れの奥が江戸・文政年間へのタイム・トンネルになっている家に住む女性が、時代を越えた二重生活をしつつ、現代の科学技術を駆使して江戸時代の難事件を解決に導く、というのが大筋である。

ミステリー時代小説としてはそれなりにおもしろい。江戸の様子も生き生きと描かれていてなかなかいい。登場人物もそれぞれに個性的で魅力がある。

だが、はっきりいってしまうと、主人公が現代と江戸時代とを行き来する設定である必要性をほとんど感じない。現代の科学技術を持ち出す必然性があまりない。とはいえ、その設定ゆえに興味をひかれる私のような者もいるのだから、商業的にはうまい作品だ(いい意味で)。

タイム・トンネルの件も含めて、何かと都合の良すぎる筋書きになっているところは気になる。主人公が絶体絶命の危機に陥るような山場もない。え、その話はそれだけで終わっちゃうんですか、と言いたくなる部分もある。しかし、そういうのは続篇への布石になり得るから、シリーズ化が望まれるところだ。というか、そうでなければ駄目だ。頼むからシリーズ化してくれ。

ついでに言ってしまうと、最後の9ページほどがほぼ私の予想通りのオチというのはちょっと残念だった。そういったところもぜひ続篇へつないでほしい。