テクスト: 宮部みゆき『おそろし 三島屋変調百物語事始』 東京、角川書店、2012年。初刊は同社、2008年。

〔2015年8月7日(金)読了〕

おちかは17歳、川崎宿の旅籠の娘である。訳あって、江戸は神田三島町で三島屋という袋物屋を営む叔父のもとに預けられている。この三島屋が江戸じゅうから怪談奇談を聞き集めることになった。聞き手はおちかである。この百物語は、夜に蝋燭を灯して行うなどという余興ではなく、ただ真っ昼間にやって来る客の物語をおちかが座敷で聞くのだ。

登場人物の一人一人が愛情を込めて描かれているというのは、宮部みゆき氏の作品の魅力なのだけれども、本作ではいささか設定に無理をしすぎているような感が否めない。背景がごちゃごちゃしすぎたせいで、肝心の本題、すなわち誰の心にも潜む邪悪なものというのが、読者に伝わりにくくなってはいないか。

また、読者をぐいぐいと引っ張ってゆく筆力はさすが宮部氏で、実際私は夢中で読みふけったのだけれど、かつての「霊験お初捕物控」シリーズのような終盤へ向けての盛り上がりが足りないのがちょっと残念だ。話のオチもやや強引な感じがする。それでも、この話にはきっと続きがある、続編があるはずだ、読まなければならない、と読者をさらに引っ張ってゆく魅力がある。

ということで、続編の『あんじゅう』もいずれ読まねばなるまい。