テクスト: 中村文則『王国』 東京、河出書房新社、2015年。初刊は同社、2011年。

〔2016年12月30日(金)読了〕

『掏摸』に続く兄妹編である。『掏摸』の主人公は本作の序盤で1度だけひょいと出てくるだけで、別の主人公による別の物語が描かれる。ただし、某組織の人間は前作から継承している。

主人公、ユリカは一種のハニートラップ屋だ。ただし実際に体を使うところまではいかない。標的となる要人とホテルに入るが、標的を薬で眠らせ、自分がいっしょに寝ている写真を撮る。こうして要人の“弱味”を作る仕事を、命令されるままにやっている。

ある時、ユリカはそれまでと違う仕事をやらされることになる。標的の男から情報を盗めというのだ。その標的こそが、前作『掏摸』におけるあの危険な男だった。

時系列的には『掏摸』『王国』の順になるのだけれども、『王国』『掏摸』の順で読んだほうがいいのではないかという気がする。というのも、『王国』は良く書けてはいるが『掏摸』に比べて筋が見通しやすく、どうも軽い感じがするのだ。『掏摸』を読んだあとの『王国』はどこか物足りない。『王国』が悪いのではなく『掏摸』が重厚で良すぎるのである。