テクスト: 高嶋哲夫『首都感染』 東京、講談社、2013年。初刊は同社、2010年。

〔2016年6月16日(木)読了〕

中国で致死率60%の強毒性新型インフルエンザが発生。北京政府は当初事実を隠蔽するが、密かに情報を得た日本政府は世界に先んじて中国からの航空機の受け入れを制限、少数の感染者を空港で食い止めることに成功する。さらには諸外国の批判を浴びつつも国際空港と国際港の封鎖に踏み切る。これは幕末以来の鎖国である。それでも網の目をかいくぐった1家族が、東京で感染爆発を引き起こす。ついに政府がとった措置は、多摩川、環八通り、荒川のラインで東京を封鎖し、内外の移動を完全に止めて、全国への感染拡大を食い止めるというものだった。

小説としての出来は良いとはいえないが、災害シミュレーションとして読むぶんにはなかなかおもしろいと思う。結果的には日本政府の措置は奏功するというシナリオだ。

しかしながら、実際にはこううまくはいくまい。政府が本書に描かれているほど優秀だとは思えないし、国民が本書に描かれているほど聞き分けがいいとも思えない。とりわけ東日本大震災からこの方、国民がいかに愚かかということを私は思い知ってしまった。

感染拡大を食い止めるために東京を環八で封鎖するなんてことを、政府が国会の承認なくある朝突然断行してしまったら、人権侵害だなんだとカツドーカたちが喜んで騒ぎだすに決まっている。感染防止のために外出を極力避けるように政府が呼びかけても、カツドーカたちは「アベ政治を許さない」などと書いたプラカードを掲げて永田町に集まり「封鎖をやめろ」とシュプレヒコールをあげ、事態をひたすら悪化させるだろう。

大地震もさることながら、むしろ疫病のパンデミックに備えて、自衛のため食料備蓄を始めたほうがいいかもしれないと私に本気で思わせてくれた一冊である。強毒性新型インフルエンザやらエボラ出血熱やらといった懸念材料は、かなり現実味の高いものだ。