「目の前で知らない女性が倒れている時、AED[自動体外式除細動器]を使用することに抵抗を感じますか?」という問いに対して、およそ4割の男性が「できれば、女性には使いたくないと感じる」「女性であれば、AEDは使わない」と答えたということです。

私はその「4割の男性」の一人である。明言するが、私は目の前に女性が倒れていてもAEDを使わない。「できれば、女性には使いたくない」ではなく、女性に対しては絶対に使わない。そばにいるほかの人(できれば女性)にやってもらう。周りに誰もいなければ、AEDの使い方を知らないフリをしつつとりあえず119番通報し、その指示に従う。

人の命がかかっているのに、そんなふうにAED使用をためらったりする場合ではない、と怒るセーギノミカタは多いだろう。明言するが、私は見ず知らずの他人の命を救うために、自分の社会的生命をリスクにさらすつもりはない。机上の空論できれいごとばかり言わないでもらいたい。

なぜ私は女性に対してAEDを使わないのか、以下、想定している架空事例で説明する。

場所は郊外の住宅街に程近い某駅の前である。平日の昼下がり、人通りは特に多くも少なくもない。

私の前を歩いていた制服姿の女子高生が、突然倒れた。とっさのことで驚いたが、すぐに私は、これは彼女の心臓に問題が起きてAEDを使わなければならない状況では、と考えた。心臓疾患を抱えている知人のことがふと脳裏をよぎったのだ。

すぐにそばにいた3、4人が取り囲み、その女子高生に声をかける。どうも意識がないようだ。私は近くにAEDが設置されていることを知っていたので、それを取りに行った。

戻ってみると、やはり女子高生は意識がないままぐったりとしている。私はAEDを使うべく、彼女の服を脱がしにかかった。

日本AED財団・石見拓専務理事:「服を全部脱がさなくても、少しずらして、ブラジャーとかを避けて、心臓を挟む形にパッドを貼り付けることができるかなと思います。とにかく重要なのは、早く電気ショックすることなので。女性にAEDを使うことを優先して頂きたいなと」
[同]

やかましい。こちとら素人だ。ふだんからAEDの使用訓練を欠かさない医療関係者などとは違う。それこそ「重要なのは、早く電気ショックすること」なのだから、手慣れていない素人ならばとりあえず服を脱がして処置するのが最善に決まっているだろう。ブラジャーも背中のホックやら中のワイヤーやらの金属が通電の際に危険だから、外さなければならない。AEDのパッドが金属に触れなければいいとは聞いているが、素人がそういう細かいことを気にしているとろくでもないことになるので、とにかく安全優先で処置すべきだ。

それにしても女性の服というのは、特に女子高生の制服なんてものは、脱がせるのが楽ではない。そしてこの一刻を争う状況において、焦ってしまってブラジャーのホックが外せない。こんなときのために、AEDには衣服やアクセサリーを切断するためのハサミが同梱されている。私はハサミで服を切り、ブラジャーを切った。

AED本体のふたを開け電源を入れると、あとは自動音声で指示がなされるので、それに従えばいい。

「袋を破いてパッドを取り出してください。パッドを図のように右胸と左脇腹に貼ってください。心電図を調べています。体に触らないでください。心電図を調べて──」

指示通りにやっておけば、AEDが自動で心臓の状態を診断してくれる。電気ショックが必要な状態であれば、そのためのボタンを押すように指示してくれるので、それまで待って──

「電気ショックは必要ありません」

──はあ?

私はAEDの音声指示に驚いた。この患者にAEDを使う必要がない、とAEDが言っている。

そこへたまたま通りかかった中年女性が、ちょっと診せてくださいと言って私の横へ来た。近くの病院に勤める看護師なのだそうだ。ちょうどよかった、これは心強い。

看護師女性は女子高生の容態を確認すると、「ああ、これは失神しているだけですよ。貧血がひどいのかも。あとできちんと診察したほうがいいでしょうね」

とりあえずホッとした。この女子高生の命に別状はなさそうだ。

程なくして彼女は意識を取り戻した。ああ、よかった。

と思う間もなく、彼女は悲鳴を上げた。

「やだぁ、何これ!」

そう、彼女は自分の服がハサミで切り裂かれ、上半身裸で路上に横たわっていたことに気づき、パニック気味だった。私や周りの人たちが話をしようにも、ひたすら喚き声を上げて聞いてくれない。

そこへ女子高生の母親が現れた。あとで聞いた話では、母娘が駅前で待ち合わせしていて、母親のほうがあとから来たという事情だったらしい。

母親は現場を見るや喚き始めた。「ちょっと、うちの娘に何してるんですかっ!」

私と居合わせた面々が事情を説明するが、母親は納得しない。

「貧血で倒れただけで、こんなふうにする必要なんかないでしょっ! だいたい、医者でもないのに何で勝手にAEDを使おうとか判断したのよっ! 余計なことしないですぐに救急車を呼べばいいでしょっ! 年頃の娘にこんなことして、心を病んだりしたらどうするつもりよっ! こんな格好で娘はどうやって家に帰れっていうのっ! あ、分かったわ、あなた、救命措置とかいって本当は若い女の裸を見たかっただけなんでしょ、この変態! 警察を呼んでやるっ!」

母親は周りが止めるのも聞かずに、スマホを取り出して110番通報した。

私は逃げるわけにもいかず、そのまま警察官が到着するのを待った。もちろん私は逮捕されたりなどしなかったが、その場で警察官に長々と事情を説明しなければならなかったし、居合わせた人たちにも証人になってくれるよう頼まなければならなかった。

女性:「そういう緊急時、有事の時には、そんなに気にはしないと思います」「救ってもらえるなら、してほしいなと思います。皆さん感謝すると思うので、ぜひやってあげてほしいです」
[同]

やかましい。「感謝」される気など全然しない。

改めて明言する。私は女性にAEDを使わない。絶対に使わない。私は見ず知らずの他人の命を救うために、自分の社会的生命をリスクにさらすつもりはない。