本稿ではその人の名を「上木彡 ナニ力ゝι」という仮名をもって表記することにしておこう。

上木彡氏は、福島第一原発事故を機に(ある意味で)ブレイクしたといえる(広義の)ジャーナリストである。彼は一部に“信者”を得てはいるものの、ネットでは「嘘つき」「デマ記者」と呼ぶ人が多い。

その上木彡氏がこのほど、さような汚名を返上するに至ったとブログで宣言した。いわく、「政府が事実を隠蔽し大手メディアが報道しない中、自分は早くから炉心溶融(メルトダウン)の可能性に言及し警告を発したりしたため、ネットでは『嘘つき』『デマ記者』などと5年に渡りバッシングされ続けたが、自分の言っていたことが嘘ではなかったことは今や明らかになった」との旨である。

いやはや、この言い分自体がまたもやなので、呆れるしかない。厳密にいうなら、9割方が嘘である。

ということで、まずは“嘘ではないといえる(かもしれない)1割”の部分について先に述べておこう。

5年前、大地震発生直後の東日本はとにかく大混乱だった。当時の記憶が薄れてしまっている人はぜひ思い起こしてほしい。何せ、市原の製油所の爆発により有毒物質が首都圏に降り注ぐ、などというデマが広まり、私のもとへも知人からメールで届いたほどである。何が本当なのかよく分からずにパニック気味になっている人が少なくなかった。そのような状況下で「原発がメルトダウン」と発する人がいれば、状況把握の甘い一部の人々から「デマだ」という反応があるのは仕方のないことであり、そういう意味では上木彡氏に当初そういう言葉が向けられたというのは嘘ではないかもしれない。

さて次に、“9割方の嘘”について述べよう。そう、こちらが本題だ。

上木彡氏は「政府が事実を隠蔽し大手メディアが報道しない中、自分は早くから炉心溶融(メルトダウン)の可能性に言及し警告を発したりしたため、ネットでは『嘘つき』『デマ記者』などと5年に渡りバッシングされ続けた」との旨を述べている。これがである。大手メディアはちゃんと炉心溶融の可能性について言及していたし(私は実際にニュース・サイトで見ていた)、しかもそれらは原子力安全・保安院の発表を受けての報道であったので政府が隠蔽していたわけでもなく、かつ、上木彡氏がメルトダウン云々の一報を発したのよりも早かった。そして、その翌朝には各紙とも1面トップにでかでかと「炉心溶融」の文字を掲げている。このことこそ、彼が「嘘つき」「デマ記者」などと呼ばれ続けている所以である。

話をまとめよう。大地震発生直後の混乱していた時期、正しい情報の把握ができていなかった人たちの中には、上木彡氏のメルトダウン発言を聞いて反射的に「デマだ」と反応した人がいたことは事実かもしれない。しかし、上木彡氏の言うような、「政府は炉心溶融(メルトダウン)の可能性を否定していた」とか「大手メディアは事実を報じなかった」とか「そんな中で自分は早くから警告を発した」とか「自分が5年に渡りバッシングされ続けたのはそれが理由だ」とか、そういった話はすべて嘘である。そういう嘘ばかり言い続けているからこそ「嘘つき」「デマ記者」となじられているのだ。

原発事故関連で上木彡氏のついてきた嘘は、このメルトダウン云々を皮切りに数限りなくある。特に目立つのは、やはり、実際には大手メディアが逐次報道している事実であるにもかかわらず「大手メディアが報道していない」と言い張っている趣旨のものだろう。一介のフリーランス・ジャーナリストが、自分の評価を高めたいばかりに大手メディアをこき下ろしたくなる気持ちは分かるが、嘘をついてばかりというのはよろしくない。飛ばし記事一つくらいのことで「嘘つき」「デマ記者」とレッテルを貼る気はないが、彼の場合はそんなレッテルを何枚も貼られても仕方がないほどに嘘をつきすぎている。

自分の言ってきたことが嘘ということになってしまうのは困るからといって、嘘に嘘を重ね続けるような「嘘つき」「デマ記者」は、さっさと筆を折れ。