テクスト: 中山七里『さよならドビュッシー』 東京、宝島社、2011年。初刊は同社、2010年。

〔2016年1月29日(金)読了〕

主人公は資産家を祖父に持つ15歳の少女(途中で16になる)である。高校の音楽科への推薦入学も決まり、時は2月下旬、ピアノの練習にいそしむ毎日を送っている。幸福な日々は、しかし、屋敷を襲った火災によって終わる。彼女は全身に大火傷を負い、生死の境から奇跡的に生還した彼女は、過酷なリハビリを経て、松葉杖の生活に至る。

彼女は絶望の底で新たな師を得て、ピアニストになりたいという夢を持ち、コンクールへの出場を目指す。火傷によってまるで動かなくなっていた指も、数分は動かせるようになる。

その彼女に不可解な事件が次々と襲いかかる。“事故”を誘発するために意図的に細工された滑り止め、転倒させるために細工された松葉杖、そして──。

すばらしい一冊である。ピアノ少女の復活劇の中に、各楽曲の音色が鮮明に耳に聞こえてくるような描写を織り込み、そして、ミステリーが並行して驚愕の結末へ導く。実は私が食わず嫌いをしていた作品なのだが、もっと早く読んでおくべきだった。

なお、題名に取られているドビュッシーとは、「月の光」「アラベスク第1番」の2曲である。いずれもドビュッシーを代表する楽曲といえるだろう。