複数の言語を操り、子供の頃から国境を越えて生活してきた人であっても、基本的な国際感覚すら身についていないことがあるようで、ちょっと驚いている。

新型コロナウイルスの問題により封鎖されている中国の武漢から、邦人を退避させるために日本政府がチャーターした飛行機についての話である。

この方は武漢に滞在中の華僑で、日本の永住者だが日本国籍ではないため、チャーター機に乗れるのは後回しになると外務省から言われたそうで、それを「差別」だと言って糾弾している。

寝言は寝て言うべきだが、これほどの傑出した寝言は寝ていてもそうそう言えるものではない。

日本に限らずどの国の政府であろうと、こういう場合の対応は同じだ。国の国たる意義は自国民を守ることにあり、日本政府は日本国民すなわち日本国籍を有する者を守る。永住者であろうとなんであろうと日本国籍を持たないのであれば、日本政府の保護対象ではない。

また、今般のような状況において、武漢滞在中の中国人(中共国籍者)を日本政府が下手に〈救出〉なんかしたら、武漢を封鎖している中共の行政権を侵害することになる。

こんなふうに、世の中には、どうも国籍というものの意味を理解していない人がたまに見受けられる。

まず「日本国籍の方(外国人含む)」という記述からして意味不明だ。日本国籍を持つ人であれば、多重国籍でない限り外国人ではあり得ない。

「ここに壁はないはずです」というのも意味不明だ。〈日本国籍を得た人〉と〈日本の永住許可を得ただけの外国籍の人〉との間には、明確な壁がある。この壁はふだんはなかなか意識しづらいかもしれないが、まさに今回のような有事の際には高い壁となってそびえる。

さて、あなたの周りにも、基本的な国際感覚がないため国籍や邦人保護についてろくに理解していない人はいるのではなかろうか。例えば、海外で飛行機事故があった時に「外務省によると乗客の中に日本人は含まれていないとのことです」という報道を聞き、「日本人さえ無事ならどうでもいいという自国中心の考えでいいのでしょうか」などと美しそうなことを言うただの馬鹿とか。