テクスト: 安生正『生存者ゼロ』 東京、宝島社、2014年。初刊は同社、2013年。

〔2015年12月5日(土)読了〕

根室半島沖の石油掘削基地で、作業員全員が無残な死体となって発見される。新種のウイルスによる災禍であることが疑われ、感染症の発症と進行のメカニズムは不明のままながらも、ウイルスの封じ込めには何とか成功する。成功したように見えた。しかし、それは人類の存続を脅かす一連の事件の序章でしかなかった。

正直に言ってかなり読みにくい文章だったが、中盤以降は予想しない方向へ話が引っ張っていかれるので、それなりに心地よくはまることができた。当初の予想に反して壮大なスケールで展開する物語だ。そして、未曽有のバイオハザードに直面してひたすら無能ぶりを呈する政府のありさまは、明らかに、東日本大震災に際しての民主党政権のメタファーである。

しかしながら、「パウロの黙示録」や日本神話の要素を取り入れているのは、私にはノイズとしか思えない。無理にオカルト風味の味付けをしようとして失敗している感がある。あるいは、作者はそこに込めた「神」の謎を読者に解かせようとしているのかもしれないが、宗教に疎い者がにわかに「パウロの黙示録」などという偽典を材料にして謎をかけたところで、どうせまともに解ける謎に仕上がるわけがない。

そのほかにもツッコミどころは少なくないのだが、ネタバレになるのでやめておこう。

決してつまらない本ではない。しかし、本作に『このミステリーがすごい!』大賞というのは、いくらなんでも評価が過大ではあるまいか。