テクスト: くろきすがや『感染領域』 東京、宝島社、2018年。

〔2018年3月14日(水)読了〕

第16回「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞受賞作であり、本来の題名は「カグラ」であったのを、発刊に際して改題したそうである。「カグラ」なら何となく聞き覚えがある。たぶんどこかのニュース記事で見たのだろう。なお、くろきすがやとは2人組みユニットだとのことで、まあ、藤子不二雄みたいなものか。

九州のいくつかの農家で、トマトに原因不明の病変が発生する。植物病理学者の安藤は、農水省の要請により調査を進めるが──。

読後感としては、そこそこおもしろいバイオサスペンスであった。ここのところブログのネタにする気も起きない駄作ばかり何冊もつかまされていたので、久しぶりに当たりを引けたようで気分は悪くない。

しかしながら、どうもいろいろと詰め込みすぎているような感じがしてならない。特に、初めのほうでただ安藤に嫌味を言うだけのために登場する何人かの大学関係者は、例えば嫌らしいアカデミズムの内情を描くための材料になるわけでもなく、ひどい捨て駒だとしか言いようがない。

過去の不祥事により学会での将来を失った植物病理学者、彼の昔の恋人にして今やすっかりジジイ転がしの達人である農水省の女性高級官僚、エスタブリッシュメントを毛嫌いする天才バイオハッカーのゲイ──。ちょっとラノベとか深夜テレビドラマとかを意識しすぎではないのか。

余計なちゃらちゃらしたものを付けずに、もっとドーンとバイオサスペンスものとして分厚く仕上げたほうがよかったように思うのだが。