テクスト: 薬丸岳『神の子』 上下巻 東京、光文社、2016年。初刊は同社、2014年。初出は『小説宝石』(同社)2008-14年。

〔2017年5月3日(水)読了〕

少年院に入れられたのは、知能指数161以上という驚異的な頭脳の持ち主だった。親から虐待され戸籍さえ作られずに育ち、境遇に耐えられず家を飛び出してからは自分の頭脳だけを頼りに犯罪組織で生きてきた。彼は少年院からの脱走を企て──

という前振りを聞いて誰もが想像するであろう、闇の世界で生きる男たちのハードボイルド・ストーリーらしきものが展開しないのが、本書の魅力である。全く先が読めない。そう来るのか、おっと今度はそう来るのかと、最後まで読者を安心させない筆致である。こういうふうに気持ちよく読者を裏切ってくれる本は最高だ。

おかげで読後感は至って爽快である。何も言うことはない。そして、タイトルとは裏腹に、誰もが“人の子”であるところに落ち着く。いい本に出遇えた。