村瀬修功監督『虐殺器官』 日本、2017年

〔2017年2月3日(金)鑑賞〕

アメリカ人、ジョン・ポールの赴く先の国々では必ず大量殺戮が起こる。美しく平和だった国が、ジョン・ポールが来て半年後にはかつてのカンボジアのような大量殺戮の現場となる。彼が世界各地の虐殺を煽動していると断定したアメリカ情報軍は、クラヴィス・シェパード大尉ら特殊検索群i分遣隊に彼の暗殺を命ずるが──。

本作は(映画も原作小説も)明らかに生成文法の考え方を下敷きにしているので、先に少しでも生成文法のことを知っておいたほうがよい。

それにしても──ついに、である。そもそもは一昨年秋に公開されることになっていた映画だ。制作会社(当時)の破綻により計画は延期され、伊藤計劃3部作の第1作に位置付けられる作品であるにもかかわらず劇場公開は3番目になってしまった。ようやく漕ぎつけた。

そして、待たされただけの価値はある映像に仕上がっていた。これならはっきりと推奨することができる。ただ、3部作の連続性を考えた場合、本作の結末の改変の仕方には多少の不満がある。第2作『ハーモニー』の時代設定が「ザ・メイルストロム」のあとということになっているのだから、『虐殺器官』のあとにはザ・メイルストロムが起きなければいけないだろうに。

子供特有の、天使のような周波数の高い怒声を発しながら、民兵たちがぼくらのチームを止めようと無駄な努力を費やす。第二次性徴がはじまる前の子供の叫び声は、男も女も区別がつかない。上官と性交中だったのだろうか、まだ乳房もろくに膨らんでいない少女が全裸で廊下に飛び出してきて、その痩せた脇腹にAKを持ち、腰だめで乱射してきた。ぼくは冷静に裸の体に点射する。平らな乳房に立て続けに穴が開き、少女は倒れる。

[伊藤計劃『虐殺器官 〔新版〕』(東京、早川書房、2014年)290頁]

こんな小説はそのまま実写映画化などできないということもあって、アニメ映画化という方法が採られたのだろう。ちなみに、本作における当該シーンでの少女は全裸ではなく、下着姿だった。というふうにいろいろと表現を抑制していながらも、R15+指定がかかっている(劇場用アニメ映画でのR指定は珍しい)。にもかかわらず、何とアメリカで実写映画化が企てられているという話もあるのだが、本当なのか?

推奨度: 90点(/100)