バラコーの偉業
かつて埼玉県浦和市(現・さいたま市の一部)に小松原高校という私立男子校があった。と聞けば、県南東部に昔から住む人なら思わずニヤリとするであろう。同校卒業生などが気分を害するのもかまわず忌憚なく書いてしまうと、いわゆる底辺校であった。偏差値は高くても40程度といったところ。有り体に言って、他のどの高校にも合格できない少年たちの最後の受け皿だった。「入試は答案用紙に名前を書けば受かる」と言われていたものである。世間でしばしば「バラコー」と略称されるとき、そこに多分の侮蔑が含まれないことはなかった。
同市には同じ法人による小松原女子高校というのもあって、いわばバラコーの女子版だった。やはり世間でしばしば「バラジョ」と略称されるとき、そこに多分の侮蔑が含まれないことはなかった。バラジョの生徒たちの素行にはバラコーよりもよろしくない面があって、さすがにそのまま大っぴらに書くのがはばかられるが、セレブ令嬢でもないただの底辺女子高生ながらなぜか高級ブランドのバッグや財布を持ち歩いていたりもした。
話をバラコーに戻そう。この地域においてまさしく底辺男子校の代名詞だった同校は、しかし2000年に大改革を始めた。進学選抜コースを開設し、大学受験のためのカリキュラムを整える。この変革は大いに成功し、少子化が進み私学の経営が困難になりゆく時代にありながら生徒数は次第に伸び、キャンパスが手狭となったため越谷市レイクタウンの造成地に移転したのが '15年。移転を機に学校名を変更、さらに共学化に踏み切り、かつてのバラコー風味はほとんどなくなった。直近ではコースにより偏差値52乃至60が付いている。一流校になったとまでは言わないにしても、かつて名乗るのも恥ずかしい底辺校だったのが〈少なくとも普通以上の学校〉へと変貌を遂げたのだから、大したものである。
それだけではない。同校は部活もあれこれ強くなっていて、全国大会に出場するレベルの部も出てきている。そして、昨27日はついに野球部が偉業を成した。
- 「埼玉・高校野球 叡明が春夏通じて初V…昌平は2年連続決勝も届かず」 << 「読売新聞オンライン」
「バラコーは『叡明』って名前に変わったのか。学校名は生徒が書ける字にしておいたほうがいいと思うけど」などと揶揄されていた頃からすると、まさに隔世の感がある。今や在校生たちは、前身の学校がどうだったなんてことはまるで意識していないという。
そうそう、姉妹校のバラジョのほうでも同様の大改革が行われ、現在は浦和麗明高校という名の共学校(さいたま市)であり、叡明と同等以上の水準に上がっている、ということも付け加えておこう。叡明と浦和麗明を運営している学校法人は、なかなか優秀なのであろう。
とまれ、叡明高校野球部の諸君、埼玉大会優勝おめでとうございます。