昨夜のNHK大河ドラマ「光る君へ」第33回「式部誕生」は、文字通りまひろが女房名を与えられた回でした。ただし「紫式部」は後世定着した呼び名であり、当時は本作のように「藤式部」と呼ばれていたようです。

藤式部が中宮彰子に仕えるようになっても、内裏での人間関係などがうまくいかずに(何せこれまで家に引きこもって本の虫で生きてきた人ですからね)里帰りするというのは『紫式部日記』にも書いてあることだと聞いたことがあるのですが、ドラマでもその通り、藤原道長が止めるのも聞かずにさっさと里帰りしてしまいました。とはいえ、また思い直して内裏に出仕するわけですけど。

政においては、除目に関してやや不穏な空気も漂いました。武力に物を言わせる者を国司にしてはいけないという道長らの考えに対し、やがて将来武士の台頭が予感される旨を藤原隆家が述べるくだりは、なかなかしびれましたよ。だって実際この十数年後には、隆家自身が武力を振るいまくって、文字通り外敵から日本を守る将として大活躍を見せることになるのですからね。見事な伏線です。

伏線といえば、藤原行成がやたらと隆家を嫌っているのもそうなのではないかと。何せのちに隆家が大活躍した時、褒賞に反対したのが行成ですから。

さらに、伏線といえば──第1回「約束の月」以来8カ月ぶりについに回収された伏線がありました。幼い頃の藤式部と道長の出会い、あの籠の小鳥が逃げた逸話は、『源氏物語』が書かれ始めた今、ようやく「若紫」のモチーフとして再びよみがえってきました。

『源氏物語』の「桐壺」あたりを読み始めた一条天皇の反応も、なかなかいいものでした。最初は自分を非難している物語のように思えたが、不思議と心にしみるものがある、と言えるところはやはり決して暗君ではありません。内裏の光と闇をともに描いてゆく『源氏物語』が、例えば『枕草子』のようなおしゃれなエッセイ集にはない魅力を持っていることを、彼はしっかり感じ取ったのでしょう。