黒木瞳監督『嫌な女』 日本、2016年

〔2016年6月29日(水)鑑賞〕

これはとにかく原作がおもしろかったから、映画もぜひ見たかった。そして、映画も映画としておもしろかった。

主人公の徹子は駆け出しの弁護士。彼女にいきなり名指しで仕事の依頼が入る。クライアントは従姉妹の夏子だった。久しぶりに再会した夏子は天性の結婚詐欺師。依頼されたのはそのトラブルの後始末だ。以後、徹子は夏子に振り回され続ける弁護士生活を送るはめに──。

「嫌な女」──それはもちろん夏子のことであり、また徹子のことでもあるのだが、どちらも憎めないキャラだから不思議である。

やや長めの原作には、徹子が24歳だった昭和53年(1978年)春から、初老の現在に至るまでの、様々なエピソードが緻密に織り込まれているのだけれども、さすがにそんな物語を2時間弱の映画に収めることなどできるわけもなく、映画化には工夫が求められる。設定された枠は恐らく最近20年弱の範囲の時代で、徹子の年齢でいえば20代から40代であり、原作から採用されたエピソードは限定されている。それでもなお、原作の持つ「嫌な女」の世界はうまく再構築されていて、脚本の出来の良さを評価したい。

また、本作は黒木瞳氏が初めて映画監督を務めた記念すべき作品であり、『化身』のあの女優が撮られる側から撮る側になったわけだが、案外ちゃんと撮れるものだと感心した。ところどころテンポの悪い箇所があったり、音楽の使い方がヘボな場面があったりするのは気になったが、黒木氏の次回監督作への期待を持たせるには十分な一本だった。

ただ──やはり原作のほうが深くておもしろいということは言っておこう。

推奨度: 65点(/100)