テクスト: 鳴神響一『私が愛したサムライの娘』 東京、角川春樹事務所、2016年。初刊は同社、2014年。

〔2016年2月18日(木)読了〕

将軍徳川吉宗の時代の、幕府と尾張藩の対立、そこに暗躍する両勢力の忍びたち。尾張方の女忍びである雪野は、遊郭の太夫として長崎に潜入、さらに出島に通ってオランダ人医官を籠絡する命を受ける。尾張は外国勢力と組んで倒幕することを企てていたのだ。そして、このオランダ人医官の素性も、実はエスパニアの諜報員だった。

そう、題名にある「サムライの娘」とは文字通り武家の娘という意味ではあるが、実際は女忍び(くノ一)のことである。

幕府と尾張藩、忍びの術、オランダとエスパニアの対立など、さまざまなことが考証を踏まえて書き込まれており、さらに日本人のスパイとエスパニア人のスパイの恋も織り交ぜられ、読んでいてなかなか楽しい一冊だ。ただ、文庫版でわずか300ページ弱の中にいろいろと詰め込もうとしたために、すべてが中途半端になっている感も否めない。いっそのこと、この2、3倍の厚さでたっぷり書いてくれたほうがよかったのではないだろうかとも思うのだが、公募作品ゆえに縛りがきつかったのかもしれない。