日本レコード大賞というのはそれこそ1980年代ごろから業界の都合で受賞対象を決めている臭いがあって、ここ十余年はいよいよひどいものとなってきており、ついにすっかり寂れてきたJポップ界を象徴するかのごときイベントに成り下がっていたが、今年は本来あるべき姿を取り戻したようでほっとしている。

「パプリカ」の良さについてはあちこちのエンタメ関係の記事で論じられている通りだが、あえて私の言葉で述べさせてもらいたい。

一言でいえば、子供5人のユニットに歌わせていて子供向けの歌かと思いきや、決してそうではなく、幼児から年配の方々までのすべての世代の心に響くものを持っているのが「パプリカ」なのである。そのことは、Foorin以外の様々なバージョンが発表されていて、それぞれに味わいがあり、また、様々なダンス動画が「YouTube」に投稿されていることなどからはっきり分かるはずだ。

子供にも分かりやすい平明な語彙で書かれた歌詞でありながら、しかし子供向けではない抽象的な表現も散りばめられた子供に媚びない歌詞であり、子供の頃の感覚そのままのごとく歌いつつ、大人の感傷でもあるという、摩訶不思議な歌詞で、それがダンサブルなリズムに乗れば聴く人々を踊らせ、しっとりとした編曲と歌声に乗れば聴く人々を涙させる。

「パプリカ」は、NHKによる「2020応援ソング」として制作され、東京五輪の公認プログラムである。これまでも五輪などスポーツ大会に向けて応援ソングなるものがいくつも企画されてきたが、どうしても〈分かりやすいイカニモな応援ソング〉の感じが漂っていたのは否めない。私はそういう〈頑張れソング〉が好きではないのだが、「パプリカ」にはそういう嫌らしさがない。歌詞に描かれるのは、誰もが子供の頃に過ごしたであろう夏のシーンの数々である。目標に向かって頑張れというような言葉は全く出てこない。それでいて誰もの心に届いて応援してくれる、究極の応援ソングに仕上がっている。

それに、子供の頃、大人が子供向けに作ったわざとらしい歌をさんざん歌わされて、背中がかゆくなるような思いをしていた記憶はないだろうか。ああいう嫌らしさが「パプリカ」にはない。なぜなら、これは子供に大人が〈子供らしさ〉を押し付けるような歌ではないからだ。子供の歌でありながら、そこは大人の歌でもあるという、なかなかにおもしろい一曲なのである。

子供から大人まですべての世代の心に響く──こんな楽曲は私の知る限りほかにない。

ちなみに、この楽曲に使われる「パプリカ」という語は、野菜のパプリカとは特に関係がなく、一種のマジック・ワードとして採り入れたのだそうである。

怒涛の2010年代は、いい形で締めくくられた。