老害としか言いようがない。いや、老害などと言ってひとからげにしてはいけないか。私のよく行くコンビニやドラッグストアでは、年配の客が電子マネーで支払っている様子も見かける。鳥越氏は単に時代に乗り遅れているだけである。給料の銀行振込は嫌だから現金手渡しにしろと言っているに等しい。

なにも私は現金主義者を不当にたたきたいわけではない。みだりに流行を追いかける必要はないが、社会の大きな流れにはある程度対応できるようにしておかないと、あとで追いつけなくなって大変なことになるから、早いうちに世の中の変化には慣れておいたほうがよい、ということだ。

先のたとえをもう一度使うなら、給料の銀行振込は嫌だから現金手渡しにしろなどと言って、そのわがままを会社が聞いてくれているうちはいいが、そんなことをしていたら自分が銀行というものに慣れることができず、いずれ自分が何かの支払いを銀行振込にしなければならなくなったときに、何をどうしたらいいのか分からなくてATMの前で途方に暮れることになる。

「私たちは現金世代です。支払いはキャッシュじゃないと落ち着かない」(鳥越氏。以下「」内同)
[同]

もはや個人の好みの話で語れる事柄ではないということが、彼には分かっていないようである。あなたが好むか好まないかにかかわらず、世の中のしくみがキャッシュレスを前提としたものへ大きく動きつつある。まずそのことは認めなければならない。

かつて現金手渡しが当たり前だった給料が、昭和中後期からは銀行振込が当たり前になったように、今は買い物の支払いが現金からキャッシュレスに変わりつつある。それが事実だ。

「ポケットの小銭をジャラジャラさせているから、それが減ると“お金を使った”という感覚が得られる。カードやスマホだと“お金を支払う”という行為を意識しにくいから、ついつい使いすぎてしまうような気がする。ビジネスとしては正解かもしれないけど、私のような現金派としては疑問ですね」
[同]

「“お金を使った”という感覚」のことを心配するなら、私の使っている交通系電子マネーのように、チャージ式でかつレシートに残高が表示されるものを使うという手がある。クレジットカードによる使いすぎが心配なら、デビットカードを使えばよろしい。なお、交通系電子マネーもデビットカードもずいぶん前から普及しているもので、決して目新しいものではない。さらにいえば、スマートフォンの銀行アプリを使えば、銀行口座の残高も常時確認できる。

「小銭をジャラジャラさせている」ようなオッサンは、はっきりいってただダサい。中学生ではあるまいし。

東京・中央区のある映画館では、ポップコーンやドリンクなどを販売する売店でキャッシュレス専用レジ3つに対し、現金専用レジが1つしかない。

週末の混雑時には現金専用レジの前に長蛇の列ができ、キャッシュレスレジがガラガラになる。“電子マネーの使えない年寄りは行列に並べ”と言われているのと同じだろう。

[同]

当たり前だ。それの何が悪いのか。現金専用レジが1つでもあることをありがたく思え。時代は変わったのだ。キャッシュレスの客の側にしてみれば、もたもたと現金払いをする客の後ろで待たされるのは嫌だ。そもそも今どき、映画チケットからして現金で買うものではないだろう。

「私も書籍や日用品の購入をカード決済の通販に頼ることが増えてきた。確かに便利だけれど、レジで直接、お釣りを渡してもらって会話があるほうが、生活が明るくなるでしょ」
[同]

何を言っているのか分からない。レジでの支払いがキャッシュレスであるか現金であるかは、会話の有無とは関係ない。「いやぁ、昨日はひどい雨でしたねぇ。あ、支払いは電子マネーで」という会話は普通にあり得る。

さて、本題からは外れるかもしれないが、私がキャッシュレスに移行しようと決めたきっかけとなった、現金使用による3つの〈事件〉を、最後に紹介しておこう。

その1: 釣り銭全部10円玉事件

自販機で140円のドリンクを買おうとしたら、手元の小銭が10円硬貨数枚しかなかったため、1000円紙幣1枚と10円硬貨4枚を投入した。これで500円硬貨1枚と100円硬貨4枚の900円の釣りが出てくるはずだった。ところが、その時に出てきた釣りは、10円硬貨90枚だった。90枚すべてが出終わるまで、私は呆然としていた。

「100円硬貨釣り銭切れ」のランプが点灯しているのを私が見逃したゆえの悲劇であった。

その2: 釣り銭機が釣り銭を間違えた事件

ある店での支払いの際、釣り銭が380円であるべきところ、釣り銭機が330円しか吐き出さなかった。私は吐き出される釣りを数えていたから気づいたのだが、店員が怠慢で釣りを数えずそのまま差し出してきて「380円のお返しになります」などとほざくので、「50円足りませんよ」と言うと、店員はいぶかしげに「お返しは380円ですけど」と言い、「だから、その手の中には330円しかないでしょ」と私が言うと、店員はようやく自分で釣りを数え、まさか釣り銭機が釣り銭を間違えるなどというのは想定外だったらしく、ちょっとパニックになってしまった。

レジ管理の店員が呼ばれて釣り銭機を開けてみたところ、50円硬貨1枚が途中で引っかかっていたのだった。

その3: セルフ給油所の小銭詰まり事件

私の家の近所のセルフ給油所では、珍しく、支払いに1円硬貨を含むすべての小銭が使える。私はそこを小銭処分を兼ねて利用していた。つまり、まず機械に手持ちの小銭をすべて投入してから紙幣を適当に加え、給油をするのである。

ある夜、いつものように小銭入れからジャラジャラと1円硬貨やら5円硬貨を出して投入していたら、途中で機械が詰まってエラーを起こしてしまった。

呼び出しボタンを押したらすぐに店員が来てくれたが、「いくら入れました?」と訊かれた私が「1円玉8枚と5円玉3枚で23円です」と答えた時の、目が点になった店員の顔は忘れることができない。