『平面いぬ。』
テクスト: 乙一『平面いぬ。』 東京、集英社、2003年。初刊は同社、2000年
《'07年3月24日(土)読了》
当代きっての物書き、乙一氏の、4編を収めた短編集である。もともとジュヴナイル系のものを集めている。
「石の目」
その顔を見た者は石にされてしまうという、メドゥーサみたいな女を題材にした、ホラーである。
乙一氏らしくない。これは良くない。どうも言葉に命が感じられない。
物語の設定には巧みな部分もあるけれど、予定調和を隠さない展開は読者をうまく引き込まないのではないか。確かにどんでん返しは用意されているのだが、どうも構成が森村誠一的ダンドリズム(段取りだけで進む雰囲気)を感じさせる。
「はじめ」
2人の少年が想定した、架空の少女「はじめ」─。やがて彼女は“極めて現実的な幻覚”として形を成してゆく。
断言する。このわずか85ページの短編は、宮部みゆき氏の長編に匹敵する質を兼ね備えている。
初めは何だかおもしろくなさそうだと思いながら、適当に読み進めてゆくうちに、読者はいつの間にか乙一世界にどっぷりはまっているのである。これこそ乙一文学の真髄だ。乙一氏は読者を翻弄する言葉の操り方をよく心得ている。
本を読む暇のない人でも、せめてこの一編だけでも読んでもらいたいものだと、強く願う。乙一世界のエッセンスが、この一編に濃縮されている。
「Blue」
縫いぐるみが動き出す話。
前出「石の目」と同じく、良くない。意図的にオツイチックな空気を醸し出そうと狙って、こけている感じがする。
「平面いぬ。」
女子高生が腕に施した犬の刺青が動き出す話。
表題作の割には大したことがない、というのが率直な感想である。
ただ、それは作品が悪いというよりは、単に年齢のせいだと思う。私が10代半ばぐらいだったら、この作品に少なからず心を動かされたかもしれない。

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