月立ちにけり
昨夜ふと『古事記』に載っている倭建命[やまとたけるのみこと](日本武尊)の長歌のことを思い出したので、改めて引いてみる。
ひさかたの 天の香具山 利鎌に さ渡る鵠 弱細 手弱腕を 枕かむとは 我はすれど さ寝むとは 我は思へど 汝が著せる 襲の裾に 月立ちにけり |
[倭建命]
[ひさかたの あめのかぐやま とかまに さわたるくぐひ ひはほそ たわやがひなを まかむとは あれはすれど さねむとは われはおもへど ながけせる おすひのすそに つきたちにけり]
古典語で朗々と詠われると仰々しい感じがするのだが、「お前、今日はアレの日だから、セックスできないじゃん」という、えげつない内容である。倭建命が東方へ遠征した帰路の尾張で、美夜受比売[みやずひめ]のもとへ立ち寄ったところ、彼女の衣の裾に血が付いているのを見て詠んだ。
これに美夜受比売はどう返したかというと、
高光る 日の御子 やすみしし 我が大君 あらたまの 年が来経れば あらたまの 月は来経行く 諾な諾な諾な 君待ち難に 我が服せる 襲の裾に 月立たなむよ |
[美夜受比売]
[たかひかる ひのみこ やすみしし わがおほきみ あらたまの としがきふれば あらたまの つきはきへゆく うべなうべなうべな きみまちがたに わがけせる おすひのすそに つきたたなむよ]
「長い間来てくださらないのですもの、それは“月もたつ”というものでございます」と、ねづっち張りに「調いました」といわんばかりの巧妙な返しである。
その夜、二人は仲良く添い寝しましたとさ。
歌論という大それたことを思うとき、私はいつもこうした原点を見直す。

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